むくげの日日是好日

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有名すぎる鉄道に自分の感情を乗せて『3番線のカンパネルラ』ネタバレ・感想


君は僕のカンパネルラ。だから、助けて

3番線のカンパネルラ 京山 あつき on BLUE comics 祥伝社
あらすじ

恋人と別れた加納。
理由は愛が重すぎるから。
加納は好きになってしまうと愛が深くなってしまうタイプだった。
恋人のことを引き摺りながらも日常は続く。
いっそのこと何処かへ行きたい。
あの有名な『銀河鉄道の夜』に出てくるカンパネルラが現れてくれればいいのに。
ぼんやりと考えながら電車を待つ加納だったが、彼が自殺してしまうのではないかと心配した高校生が抱きついて来て―…

 加納さんはかなり愛が重いタイプなので、別れたあと引き摺りまくりなんですよ。
ただ、好きな人とずっと一緒にいたかった。
この一点なので、好きになると思い切り深い愛情で包もうとするけれど、恋人はそうではなかった。
だからこそ、加納さんはこの世の終わりのように感じてしまい全てを放り出したいと思うけれど、そうすることも出来ない。
だから鬱々とした感情のまま通勤電車に乗るわけです。
思いつめた顔をしているせいで自殺をすると勘違いされて高校生に抱きつかれてしまう。
そこで説明しようと思うものの、高校生の顔を見て取敢えず話を合わせておくかと嘘をつきます。
この嘘が後々…ということはなく、二人の知り合ったきっかけ、というものです。
それでも高校生は気になり、加納さんを見つけては挨拶をしたり合図を送ったり。
そのほんの少しのことで加納さんは救われた気持ちになる。

高校生の名前は最後まで出てきません。
彼の名前は加納さんがこっそりと呼んでいる「カンパネルラ」以外出てきません。
この話は高校生・カンパネルラが加納さんの気持ちを軽くする、という話。
試し読んだ時、この二人がどうにかなるかと思ったんですがね。
何せ加納さん、惚れっぽいので優しくされるとすぐにふらふらとなびいてしまう。
可愛い高校生だし、自分のこと気に入ってくれていそう→両想い!(え)
という感じです。

ゆえにこの後出てくる店長に少し誉められただけで(普段とのギャップ)好きかも!になります。
ちょっとふらふらしすぎでは…と思うものの、加納さんはこの世の終わりという失恋をしていますから、優しさに飢えている。
もちろん、元々惚れっぽいとしても、そこに+αの要因がたっぷりはいってしまい、ふらふらが加速しているんですよね。

このふらふらの加納さんはともかく、店長も一気に来るなぁ、という印象です。
加納さんと少しずつ距離を縮めて、居心地の良さに気付く。
店長は離婚しているし、自分はゲイではないと言う。
その言葉に加納さんは傷付き、喧嘩というか店長に自分の気持ちをぶちまけ、その後ゆっくりと説明をしますが、店長はその気持ちにもしっかりと向き合ってくれるところが良かった。
ここからが急展開すぎるのですが、恋愛の醍醐味でもある。
凄く幸せそうなので、良いか…。

あと、職場においてのLGBT問題を入れてきている作品です。
トイレ問題、恋愛感情。
そんなものを職場の上司(店長)視点で入れてきていて認知度の差や感じ方などをさらりと描かれています。
職場の問題なのですが、周りの意見を聞きつつ、上司視点の言葉も優しい感じで良かった。

加納さんが勝手に名付けたカンパネルラという高校生はどこにでもいる人として描かれている。
でも、彼によって加納さんは救われた。
加納さんにとって、重要な人だった。
実は加納さん、『銀河鉄道の夜』をちゃんと読んでいない。
テレビの中で解説していた内容をそのままに高校生を救世主のようにカンパネルラと呼んでいる
この設定が活きていてよかった。

京山先生の作品は初めてでした。
面白いと評判だったことと試し読んでみて良かったので購入したのですが、読み進めるとあれ、あれれ?と想像と違う展開に驚きました。
これ、ミスリード狙ってはいないだろうけれど、試し読みだけだと勘違いしそう…(私はしました)
結果、素敵な作品で良かった!となったので個人的には問題なしですけれど。

気になったことは、加納さんの鞄の存在。
持っていたり持っていなかったり、肩かけタイプなのにコマによって逆になっていたり。
え、間違ってるかな?と思い見返したけれど、やっぱり逆だったり……。
急に鞄が消えますが、恐らくこの作品においてそんなことは瑣末なことなのだろう。
そう思いました。
感情優先、話の流れ優先。
気にしてしまう方が野暮。
そう思いつつも、混乱はしました。
え、ちょっと、鞄!
え、あれ?どうやって持ってきたの?
野暮ですね。

初めて読んだ時よりも、二度目、三度目と繰り返す度にじんわりとした味わいを感じました。
日常系になるため、ロマンティックもりもり!が好きな方だと少し物足りなさがあるかもしれませんが、丁寧に描かれた日常にほっこりとする作品です。



紙書籍等
京山あつき 祥伝社 2019年02月25日
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