むくげの日日是好日

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離婚して、もう恋愛はいいと思ったのに『まだ愛が足りない』ネタバレ・感想


欲しい、なんて言われ慣れたセリフだよ

まだ愛が足りない 西田 東 CITRON COMICS Libre 
あらすじ
人事部に異動した井上正之は離婚したばかり。
周りの気遣いとは関係なく、独身生活を楽しんでいた。
だが、そこに機械事業部エレクトロニクス課の課長・北原明彦がセクハラをしているという文書が届く。
人事部としては見過ごすことが出来ないと、井上は北原の様子を確認しに行く。
実は、北原とは10年ほど前に一緒の課にいたことがあった。
課内の雰囲気は悪くなく、嫌がらせと判断するかどうか迷う井上。
しかし、そんな井上をじっと見つめる北原に気付き、同じ課にいた時もよく目が合ったことを思い出し―…。


 離婚したばかりだけど、特に不満は無い。
子供は可愛く、預けられた猫の面倒も見る。
異動はあるが、仕事に対してのモチベーションもそれほど下がることはない。

こんな井上さんが北原さんに目をつけられて大変な目に遭います。

北原さんは自分の良いところはお金と体だと思っている。
容姿にも自信はあるけれど、いつまでも続かない。
歳を重ねれば、自分の魅力は失せる。
そう思っていて、なおかつ仕事に対してもそこまで思い入れがないからさっさと会社を辞めるかとまで思っている。
だけど、その前にどうしても井上さんと寝てみたい。
その機会を狙っています。

北原さんは若い人と寝てますし、特定の決まった人は作っていない。
ただ、若い人をお金で自由にしている。
そんな感覚でいるからこそ、唯一気になる井上さんをどうにかしたい。

一方井上さんは、もう人生も半ばを過ぎたし離婚も経験しているしこの先は独身生活を楽しむか、くらいの気持ちなんですよ。
そこに北原さんがいろいろと仕掛けてくるわけです。
翻弄される井上さん、時折「歳の差か?」と悩むこともたくさんあります。

例えば、会社というか社会に対しての考え方の差。
井上さんは会社に忠誠を誓う…とまではいかずとも大切にしていて有休の消化もほぼしていない。
自分がいないと、上がいないと、と思うけれど北原さんは違う。
どんな立場の人であれ、休んだところで会社は回る。
そう言って笑い飛ばすわけです。

全てがこんな調子で二人の差がいろいろと出てきます。

北原さんは井上さんを何とかしたいし、その機会がきたなら絶対ものにしたい。
だからこそ、邪魔だと感じた時は徹底にやろうとする。
例え、その相手が井上さんの子供であっても。

ここがちょっと大人げないともとれるけれど、それだけ井上さんに対して必死だし、北原さんの訴えることってわかります。
その点、井上さんの狡さがね…。
西田先生の作品に出てくる人達ってちゃんと狡いところがあり、そこをしっかりと描くから人物像がはっきりするんじゃないかな。
井上さんだけでなく、北原さんも狡いところがある。
でも、そういう狡さも含めて人間くさいところが良い……。
まぁ、子供からしたらとんだ八つ当たりだし傷つくんですけれど…。
西田先生の描く子供って思春期が多いので、このぐらぐらした中で傷つけるっていうのが……。

井上さんのこの狡さが酷いなぁ、と思いつつも決めるところ決めてくるからなんかどうでも良くなるんですよね(ちょろい)

作品内で井上さんが北原さんを突き飛ばしたりしますが、これをパワハラだと思うか、というやりとりがありますが、今だと微妙では…。
やりとりを見ても若干微妙かも、と思いますがここでの井上さんですよ。
この後に別に自分は訴えられてもいい。
管理職だからそのくらいの覚悟しているからな、と言い切るところが良い……。
自分に自信があるなら堂々としろ!とか良いなぁ、と思いつつ北原さん全部演技だしな、となりますが。

あとは、若い人をお金で自由にしてきたから他人も自分に対して興味ないだろう、と思っている北原さんに何とも言えなくなる。
もちろん、自業自得なんですが、自分がそうだから他人も自分に執着しない……。
そりゃ恨みやらなんやら深い感情を抱かれますよ……。

他には井上さんが暴力や性暴力を受けたり井上さんの別れた妻が出たり子供は結構絡んできたりとあります。
1冊の中で展開が多いな、と思われるかもしれないですが西田先生の技量で綺麗に纏まっています。
ちょっと身勝手な大人たちの苦しくなる様な恋愛感情がぎゅっとつまった作品です。

この作品に限らずですが、西田先生独特のテンポの良い会話。
会話の中に日常生活の面白みみたいなものも入っていて、本当に好きです。
シリアスな展開なのに少し面白みも足す、その加減が良い。

こちは西田東名義時代の作品で現在は西田ヒガシと改名されています。
肉食系中年、といえば西田先生だと思っていますが、どうですか。
あと池玲文先生もそうですね。
他にもあるので(年の差大好き)感想書きたい作品ばかりで困ります……。

本当に好きな作品です。
アラフィフ、アラフォーなど関係ないとばかりに恋愛に全力でしかも仕事も全力。
ここなんですよ…。
枯れている、なんて言うくせに「全然枯れてない~~~~!!!」となることが西田先生作品の中でどれだけあったか……。
歳を重ねたから肉体的に限界、からの若い人が頑張るというのがもう!あああ~と感情が乱れる程の、何とも言えない気分になります。
西田先生の作品中だと枯れてはいないけれど、勃たないということがあります。
年齢的に厳しいんですよ、と……。
そこはフィクションで…とならずしっかりと描く。
そしてその場面を伏線にもってくる展開が好き……。

西田先生は読ませてくれる、というタイプなので一度試し読んでみてほしいです。
いつもとんでもないのはあとがきなんですが、そこは試し読みには含まれないのが残念。
いや、あれだけだとそれはそれで問題ですけれど…。

割と重めのテーマが多いのですが、今回の作品は日常もので離婚した後の家族との関係も出てきますが、そこまで重くは無いと思います。
井上さんの子供に対しては八つ当たりをするので酷いかな。
西田先生は離婚した設定で描かれる場合、作品内でも家族を出します。
基本的に円満離婚なので穏やか。
だからこそ、揉めることも多々ありです。
また、揉めた相手を怒りで殴る、みたいな場面も出てくるのでそういうのが苦手な方はご注意ください。

重めの設定のものはテロリストの話だとか政治系だったりヤクザだったりします。

日常ものでも、少しだけ重さや苦みがほしい、そんな時にお勧めの作品です。
身勝手で狡い大人たちなのに、読後感は悪くないと思います。