むくげの日日是好日

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聴こえないはずの音が気持ちを揺さぶる『世界でいちばん遠い恋』ネタバレ・感想


頼ってもいいのだと知ってほしい

重度難聴の五十鈴歩の職業はデイトレーダー
努力家で堅実な彼のことを気にかけ、大学時代からの友人・哲は自身の会社に誘うも迷惑をかけるからと断られている。
自分のことは自分でする。
迷惑をかけたくない。
その努力を知っているからこそ、哲はもう少し人に頼れば良いのにと思うが頑なに歩は拒む。
そんな歩が知り合ったのは、音大に通う壬生十嘉。
十嘉は周りと上手くやっていけず浮いた存在だった。

聴こえない歩と周りの声を聞こうとしない十嘉。
そんな二人が出会うことで今までが変化して行く。

歩は自分のことは全部自分で出来るようにと努力を続けています。
それゆえ、恋人からも別れを切り出されてしまう。
頼ることをしないため、一人で何でもできるのだと思われてしまうんですよね。
頼らなくていいところまでしか、全て踏み込まない。
そんな頑なさが歩から感じられるため、友人の哲も苦言を呈してしまうし、もどかしく感じてしまう。

歩が日課のランニング途中で倒れていた人を助けたことで物語が動いていくのですが、この相手は音大生の十嘉。
二人は少しずつ距離を縮めていくのですが、耳が聴こえない歩にとって楽器は憧れ。
でも、その憧れである楽器をぞんざいに扱う十嘉。
バイオリンは好きだったはずなのに、周りとの軋轢により、その気持ちと向き合えなくなっている。
捨てようと思っても、捨てられない。
好きだからこそ、上手くなりたいし出来ないことが増えるし、その全てが悔しい。
また指導を受けるオベールからも『”聞けば分かるだろう"という態度は傲慢だ』(引用)と指摘されていますが、ここが歩へとかかっていくのか…と思うと十嘉の変化が楽しみです。

歩は十嘉の音楽が聴こえない。
十嘉は歩からの言葉が聴こえない。
互いに距離は縮まっているのに、もどかしさがある。
歩は今まで何度も経験していることだから全てを呑み込めるけれど、十嘉は初めての経験だからこのもどかしさに焦れてしまう。
どんどん近付いているのに、焦れてしまう。
このことを十嘉は『遠い』と表現しています。

この作品、恋愛色もあるのですが互いの成長の話でもあると思います。
互いに必要なことには気付いているけれど、それを上手く自身の中に入れられない。
この先、二人の距離が縮まっていく過程で少しずつ変わっていくのかな、と思っています。
今までとは違う努力になりますが、それは自分のためでもあり、他の人のためでもある。

ただ、歩は警戒心が少し足りない気がして不安です。
心配しているのは分かりますが、倒れていた十嘉を家に入れるとか、哲じゃなくても不安になりますよ。

麻生先生の作品は初めて読んだのですが、とても物語を丁寧に描いている印象です。
ゆったりとした世界で歩にとってはまだ恋愛未満、十嘉にとっては恋愛という段階です。
まだ1巻なので今後どのように話が進んでいくのか、どれほど続くのかもわかりません。
ただ、十嘉が歩にとって頼ることができる存在になってほしいと願うのと同時に、十嘉にとっても歩が同じような存在になるといいな、と思います。
歩にとって頼るということは自分の世界が変わってしまうことになりますし、小さな頃から教え込まれたものを変えるのは難しいと思います。
哲が何度言っても届かなかったそこに十嘉が届くのか、どうか。
2巻が楽しみな作品です。

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