むくげの日日是好日

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ずっと一緒にいることを丁寧に描く『いとおしき日々』ネタバレ・感想


お互いを大切に想うことの記録

いとおしき日々 sono.N Charles Comics メディアソフト

 あらすじ

和彦の家庭教師として近所に住む真がやってくる。
今まで野球に時間を割いてきた和彦は志望校の合格ラインまでは程遠い。
やる気を出す為に、和彦は成績が上がったら真のことを教えて欲しいと言いだすのだが―…。

18歳と28歳。
家庭教師と生徒として出会い、受験後もずっと一緒にいる。
言葉にするとそれだけなのですが、ここを丁寧に描いた作品です。
真さんは上司と不倫関係にあり、いつか自分の方を向いてくれるのではないか。
そういう淡い期待を持っていたのですが、相手に子供が生まれた事を知り一気に現実に戻されれ会社を辞める。
そんな時に出逢ったのが10歳年下で高校生の和彦さん。
和彦さんは野球をしていて、あまり勉強をしてこなかった。
だけど、体を壊してしまい他のことを見つけるために大学へ行くことにする。
そんな理由で近くに住む真さんに家庭教師を頼んだことで二人は出会うんですよ。
それまでは顔を知っている程度だったのに、接するうちに真さんが気になり始める和彦さん。
順調に成績は上がり、その度に真さんのことを知って行く和彦さん。
それなのに、和彦さんがどんどん真さんにのめり込んでいくことを知り、母親は真さんに家庭教師を辞めるように言う。
理由としては誰かの為にすることでは今後の人生において困る(要約)ということなのですが、これをどうとるかですね。
母親の言う事もわからなくはない。
何をするにも「誰かのため」というのは一見良い気もするけれど、それが無い時は何もしないのか、となるのはまた別の話じゃないですか。
誰かのための時も自分のための時もそれ以外の時も。
変わりなく行動できる方がそれはいいのだろうな、という気がします。
息子が家庭教師のみのためにしか動けなくなるのは親として怖い。
しかもどうも憧れ以上の感情を持っているのでは?と恐らく勘ぐったのだと思います。
そうなると二人きりの空間というのも少しざわついたのかもしれません。
ただ、それを自分から言うのではなく真さんから言って欲しいという辺り母親の保身もある気がする。
夢中になって感情が高ぶっている相手に対し何を言ってもきかないだろう。
それならその対象相手に言ってもらう方がまだ言うことをきくかもしれない。
そして、そうすることで自分を恨むこともないだろう。
ここは描写されていないので憶測ですけれど。

親の言うことをずっときいてきて、唯一反発したことは野球をすること。
それなのに、体を壊してダメになった。
その時言うことをきかなかったからだ、というようなことを言われてそこからまた親の言うことを聞きだす和彦さん。
そんな時に周りの大人(両親が殆どっぽい描写)とは違う存在の真さんに惹かれて行く。

一方真さんの方も不倫問題などありましたが、和彦さんと出会い教える事上手だから先生が向いているんじゃないかなど言われる。
これも運命の出会いだと思うんですよね。
恋愛云々ではなく、この人と出会ったから路が拓けたというのはあると思うんですよ。
結果的には恋愛になったわけですが。

家庭教師だったんだ、と思われていましたがこれもゴミ捨ての時に母親が声をかけたくらいじゃないのかな?
有名大学卒業、ということなどは噂になっていてそこで丁度無職なの?なら家の子見てくれない?みたいな流れじゃないのかな?
母親は結構そういうところはしっかりした所に頼みそうなイメージがあるのですが次の就職先決めないとみたいな会話も出てきますし。
本業を家庭教師と決めているなら「就職先」とは違わないかな、と。
この時代というかこの世界に家庭教師を派遣する職業があるのかも不明なので明確には言えませんが。
→思い切り本編とカバー下に「無職」と書いてありました。本当に済みませんでした。
そうなるとやはり母親が「無職ならお願いね」パターンかな。

でも、結局二人はずっと一緒にいる事を選択します。
ただ、ここのあたりは描かれていないので両親たちとどういう関係だったかは不明。
また、和彦さんに兄弟がいるのかどうかも不明。
これ、反対されていたとしたら(雰囲気的にその可能性が高いと思っています)きついな。
真さんの家族関係は一切出てこないので、こちらもどうなっているかは不明。
子供は親のもので、子供は親の言うことをきかなければならない。
そんなことは思いませんが、そういう感情の元で二人が恋愛することを選択したなら、凄く幸せだと言い合い様々な葛藤を飲み込むまでの年月があったのだろうと思います。
ここはまるっとないので、ただただ幸せな二人が描かれています。

唯一触れているのは和彦さんが事故に遭うもパートナ―という立場では医者からの説明も聞けず、病室にも入る事が出来ない。
ここで和彦さんの両親と顔合わせしますが、会話のシーンは無い。
和彦さんの病室に入れる頃には両親おらず、真さんと和彦さんの二人きり。
この経験から、真さんは養子縁組を申し出ます。
和彦さんは承諾しますが、その後悩む真さん。
簡単に決めて良かったのか。
あのタイミングだからと流されたのではないか。
一緒にいるのに、そんなことを考える。
この葛藤具合が幸せを語りつつも(※当時は30代と40代です)まだ思うことがあったのだろうな。
年齢的に和彦さんが真さんのところに入るのですが、ここの辺りもばっさりカット。
職場でどうだとか、周りがどうだとかは一切ないです。

最初読んだ時にじーんとあったかくなる幸せな二人だな~と思いました。
ただ、上記の点については少し考えてしまうこともありました。
両親問題などまるっと隠す方がフィクションとしては良いな、と思いますが、ちらりと入り込む両親が気になってしまいました。
ただ、ここを深堀りされると「えぇ……そういうもめ事は要らないな」と思うタイプなのでこれくらいで良かったと思います。
ヒリヒリを望む人には少しご都合主義に映るかもしれません。

年代を追って、その時の二人を描いています。
僕は歳をとるごとに…お前に何を見せてもいい気持ちになっているんだ…』(抜粋)
真さんのこの言葉が凄いな、と思って大好きなセリフ。
最初はいろいろプライドやらなんやらあったし、思う事もあった。
だけど、歳を重ねていくごとにそれらが剥がれていくのがよくわかる。
それだけ深い愛情になり、何を見せても恥ずかしくないと思える。
何を知られても平気、というくらい相手を信用していることとも繋がると思うんですよ。
絶対に相手は自分から離れて行かない。
そういうのが感じられていいな。
これもし離れたとしてもそれだけの覚悟ともとれるのでどう転んでも相手への想いが凄いことが伝わる凄い言葉だと思うんですよ……。
初めて読んだ時このセリフにずきゅーんとやられました。
あと、和彦さんの中で大好きなセリフはこちら。
好きな人の身体はいくつになっても好きな人の身体だからなぁ』(抜粋)
これ……このセリフがずっと年齢を重ねてきた系作品(語彙力)では本当に輝く……。
相手が老いてきたなぁ…という自虐込みの言葉を言ったとしても何言ってんだ、好きな人の身体だよ、がよく現れていて本当に好き。
1話で相当やられながら読み進めた作品でした。

とても互いを想い合い、本当に幸せな姿でしかない。
その姿を丁寧に描き、もめ事もなくただ二人が生活している姿だけを描写している。
出会いから別れまでを綺麗に見せている作品だと思います。
もめ事は絶対に見たくない、ただひたすら甘い関係が永遠に続いている。
そういう内容を好む方にお勧めしたい作品です。
ドラマティックな盛り上がりを期待される方ですと、少し物足りなさを感じるかもしれません。
そのくらい穏やかに、互いを想い合うことだけに焦点が当てられています。
本当に読むとほっこりしますし、本当にお互い好きすぎるのね…と思える内容です。


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