睡眠アシスタントは誰の胸で眠れるのか『俺の胸でおやすみ』ネタバレ・感想
眠れない時に頼って
俺の胸でおやすみ 未散 ソノオ DEAR+COMICS 新書館
あらすじ
睡眠アシスタントを商売としている有限会社H&B商会で働く三谷春臣。
相手を心地よく睡眠に誘う仕事のため、自身が疲弊することもある。
それゆえ月に一度メンテナンスは義務化されていて互いに施術し合うようになっていた。
ある日会社内で客からの指名が多い桜井望が辞めることになるが、その理由は好きな人が辞めて欲しいと願ったからだと春臣に説明する。
春臣はその理由に、相手に対し苦言を呈するも望は笑いながら、春臣にキスをする。
そして、その場を見てしまったマキノは春臣とのメンテナンスを断る。
三年間ずっと同じ相手だったのに、急に断られ困惑する春臣だったが―…。
睡眠アシスタントなのに悩み事が増えて自身の体調不良を引き起こしてしまう、仕事と恋愛と癒し。
春臣とマキノは以前のように互いにメンテナンスできるような距離に戻れるのか。
睡眠アシスタント。
この言葉で想像するのはサポート要素が強い器具などですが、こちらの作品では完全に人が人の睡眠をサポートします。
生活で疲れてしまい自分でどうすることもできない。
そんな時に彼らは自身の得意分野（アロママッサージ、歌など）をフル活用して、相手を睡眠へと誘う手助けをします。
起きた時から眠るまで、というコースもあるのでかなりの信頼関係を築くことが必要かもしれません。
ゆえに、リピーターが多く会社は42周年という長さ。
ただし、布団での添い寝を希望される場合は布団の中には入らないというところが重要。
あくまで添い寝。
それ以上は禁止なのもいい。
内勤と外勤があり、内勤は裏方で外勤が睡眠アシスタント。
外勤の人が疲れ過ぎると内勤に異動したりとしっかりフォローも入ります。
春臣自体、自身が眠れなくなった経験からこのサービスを利用した過去があります。
その時の担当が望。
だから春臣にとっての特別なんですよね。
望のようになりたい！と思って入社したわけですから。
一方のマキノは入社試験の時の春臣を見た時からずっと気になっている。
だからこそ、春臣が望に対し強い憧れを抱くこともよくわかっている。
でも、それとキスするところを見て平気かというかそれは別問題。
マキノのメンタルはぼろぼろになってしまいますが、春臣の方は望を憧れ以上には見ていないので不思議な感じ。
他人とキスしても、好きでないなら（感情がないなら）唇がくっついただけ、と思う春臣の相手をするのでマキノも大変だろうなぁ、と思ってしまいます。
世界観がとても優しいので読んでいてストレスを感じない。
マキノだけがストレスでキリキリしている……（原因は春臣）
先輩たちも優しく頼りになる感が良く出ていていい。
竜郎さんの先輩らしいところと突き放す感じの加減も良くて、好きです。
内勤の大坪さんも飄々としていて良い。
未散先生の作品は言葉の選び方が好きです。
竜郎さんの他人の考えていることなんか考えても無駄みたいな感じがどの作品にも出ていて、それが総じて不思議な感じにもなっている。
どの作品にも一人は傍若無人とされてしまうような人が出てくるのですが、その感じに結局振り回されて恋愛になるというのがなんとも。
気疲れしてしまう人と傍若無人な組み合わせが多く、その関係性ゆえ傍若無人な人も徐々に自身の考えを言葉にするようになったりするのもいい。
ただ、気疲れの人は本当大変なことが増えている感も否めないのですが…。
望さんの読めない感じと竜郎さんの先輩な感じが好きなのでスピンオフこないかな！と思っていたらスピンオフ『あなたの胸で眠りたい』が出ました。
先輩同士のなんとも言えないジレジレな作品です。
未散先生の作品はこの独特な感じがやはり癖になります。
同人誌にて睡眠アシスタントの日常を発表されています。
現在電子書籍でも取り扱いがあるので気になる方はチェックしてみてくださいね。
こんなサービスがあったらいいのにな、というこの絶妙感がたまらない作品です。
性的なサービスがない、というところも良い。
ひたすら相手の睡眠だけを考えている。
ただし、サービスが受けられないほど辛い時は病院を勧めているところも良い。
睡眠アシスタント、という仕事と恋愛。
日常で起きるストレス案件を上手く絡めた作品です。
