むくげの日日是好日

BLコミックの感想日記

部下の言動で日常に色がつく『オールドファッションカップケーキ』ネタバレ・感想


恋をすると”ただの”日常が違ってくる

 

オールドファッションカップケーキ 左岸 左岸 H&C Comics ihr HertZ Series 大洋図書

 


あらすじ


39歳の野末は自分で選んでいるはずの日常に少しだけ憂鬱を感じるようになった。
自分が望んで出世もせず、同じような日々を過ごしているはずなのに。
画面に映る流行りもののパンケーキだって気になってもきっと食べにいくことはない。
39歳という年齢がそうさせるのかも、と自身で結論付けていた。
野末は仕事も出来、社内でも人気者。
そして、それは部下である外川も同じだった。
ある日二人が仕事で駅のホームにいる時、野末が楽しげにしている女性たちを羨ましいと言う。
自分は若くないから、あんな風にはできないし仮に若い時でも男性であるからきっとできない。
そんなことを言う野末に外川は「女の子ごっこをしよう」と持ちかけてる。
戸惑う野末をよそに、外川はとりあえず明日はパンケーキを食べに行こうと誘うのだった―…。


BLアワード1位記念、ということで今回はこの作品です。
この作品に関しては「このBLがやばい!2021年度第2位」でもありますね。

5月1日に続編『オールドファッションカップケーキwithカプチーノ』発売

 他には『俺が好きなど嗤わせる』しかなくてアンテナ張ってない感が凄い。
でも、ランキング内に気になる作品があったので購入したいと思います。
丁度アニメイトで対象作品2冊購入すると描き下ろしの小冊子ももらえますしね。


読んだ時に感じた印象としてはコマ数の多さです。
最近だとこれほどコマ数多い漫画見ない気がします。
その分、丁寧な描写でしっかりとそこを見せてくるのが良かったです。

コマ数の話だけでなく、本当に言葉ひとつひとつの選び方、どうして外川くんが野末さんを好きになったのかの描写というか、言葉に重みを感じる。
自分よりも長く生きている人からの経験値からくる言葉。
説得力が増しますからね。
理想ではなく、自分が実際に感じたことを語る方が響きやすい。
そして、実行力があるから嘘というか誇大して言っていたわけでもない。
そんなの見せられたら好きになる……。
しかも、野末さんめちゃくちゃモテるんですよね。
そこの点からも慕われている感がもの凄く出ていますし、接する人にもわりと公平なのだろう、と推測できます。
恐らく同期の上司からはせっつかれてものらりくらりと交わし昇進したくないと言う。
そんな野末さんをもどかしく思う外川くん。
仕事が出来ることを皆わかっていて、しかも昇進の機会も十分あるのに自らその機会を捨てる野末さん。

現状がいい。
現状で、いい。

仕事だけでなく毎日も変わり映えせずなんとなくこなしていて、少しだけ憂鬱を感じている。
それは自分で選んでいるにも関わらずそう思っている。

どこかで変わりたいということを考えていても、今更、と自ら捨てている。
年齢がそうされるのかもしれない。
40歳に手が届くから、そう諦めている節がある。
何かを見てキラキラするものを眩しいと見つめるだけで「でも」と諦める。

そんな彼の元にやってきたキラキラを手に取って彼に渡す外川くん。
野末さんが気になったもの、気になるだろうものを集めてくる。
その集められたものを手にして野末さんの日常は少しずつ色が出てくる。
憂鬱だった日常が、欲しいと思っていても何かと理由をつけて諦めていたものによって変わって行く。
それを渡すのは、自分に懐く部下である外川君。

とにかく外川くんが必死なんですよね。
その必死さの理由を何となく勘付いているのにわざと、違うと思いこむ野末さん。
10歳という年齢差、同性、上司と部下。
理由なんて探せばどれだけだってありますし、逆にいうとそのくらいの理由とも言える。
けれど、その「理由」が野末さんにとってどれほど重要なのか。
今までの生活を変えてしまうと思うから、慎重にならざるを得ない。

問題点を丁寧に描いて心情が動くそこを繊細に描かれているところがいいと思いました。
大きな事件などは無く、ただ、日常を丁寧に描くことで問題を浮き彫りにしていく。
出てくる人達も皆嫌な感じがしないのも良かったです。
上司が合コンをセッティングして参加を促すのはセクハラ、パワハラ案件になりそうですが、本人たちが割り切っているのでいいです。

本当に出てくる人全員野末さんを好きなのが凄かったくらいです。
どれだけ良い人なの、野末さん。

あと、カバー下の漫画の話になるのですが、野末さんのセリフにハッとしました。
確かにどれだけ苦手なもので、それが害虫と呼ばれるものであっても自分の為に「殺生」をしてくれる。
この感覚ですよ。
そうだな……と今更ながら「殺生」をしてくれるって凄いな……。
いや、まぁ、そのまま放置するという選択も難しいのですが……。
殺生、か。
このセリフの後は甘い展開なので、重い話ではないです。
ただただいちゃいちゃしているのですが、セリフのインパクトに全部持って行かれてしまいました。
本編にも素敵な所は沢山ありましたが、その中でもこのカバー下のやりとりインパクトの大きさ。
ここだけが異質に見えるというか、野末さんのこういうところが魅力なのかもしれない。

本編が丁寧に描かれているところ、そして穏やかな日常。
その中に上司と部下という関係性と年齢差があり同性である中での恋愛。
綺麗に纏めてあって良い作品だなと思います。

大きな事件が起きるわけでもなく、ただ淡々とした日常の中にほんの少しの色を差す。
ただ、それだけなんですが、本当に丁寧な描写で描かれています。
だからこそ二人の事が想像しやすく身近に感じやすいのかもしれないです。

恋愛の醍醐味は、必ずしも激しい事件なんかなくても日常に転がっている。
そんな恋愛話です。