むくげの日日是好日

BLコミックの感想日記。このブログはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

目が合うだけ。ただ、それだけだったのに『コントラスト』ネタバレ・感想



急速に縮まる距離

コントラスト itz Canna Comics プランタン出版

あらすじ
陽(あきら)と翔太(かなた)は同級生だが、親しいわけではない。
それなのに、何故か翔太は陽と目が合うことに疑問を感じていた。
ある日、陽の姿を見かけた翔太だったが、陽の行く先は学科が合併される前の校舎。
ちょうど一人になりたいと思った翔太もその先へと進んでみる。
すると屋上へと続く扉の前で壁に背をつけ目をつむる陽を見つける。
好奇心から近付く翔太の耳に、何かの音が聴える。
それは陽のそばにあるイヤホンから漏れていた。
何を聴いていたのかと興味を持った翔太の耳に入るのは、ハードロックだった。
想像とは違うことに驚く翔太は目を開いた陽と目が合う。
そこで以前から目が合うことが気になっていた翔太は陽に問うが、はぐらかされてしまうのだった―…。

陽と翔太は違うグループだし、話すこともない。
そもそも陽一人でいるのに、そこにすっと入っていける翔太。
一気に距離が縮まって行き、互いのそばが心地良さそうなのがよくわかります。

また、翔太の周りにいる人たちもいい人なので読んでいてストレスがないのが良い。
陽の過去の話は少しだけ思春期とも相まって辛いけれど、ちゃんと陽が向き合っているところ、そして味方となってくれる兄の友人神田さんの存在が大きい。
神田さんは神田さんでいろいろありそうですが、互いに依存し過ぎない程度なところが良いんですよね。
※依存は依存で好きなのですが、この作品ではし過ぎない距離感が良い。

翔太自身も、好きなサッカーを諦める経緯など辛い気持もある。
その話を聞いた陽の反応で気持ちが軽くなるのも良い。
他の誰かではなく、それが陽だというのがやっぱり特別なんですよね。

陽は同性愛者ですが、翔太はそういうことには触れずただ陽といるのが楽しいという感じで描かれています。
翔太はモテますし、女性からの誘いも多い。
だけど、一緒にいて居心地が良いのは陽だと思っている。
触れられてどぎまぎしてしまうけれど、陽と一緒にいたいと思っています。
友情と恋愛感情のゆらゆら感が好きです。

陽の過去話に少し残酷とも言える描写もありますが、この描写もしっかりと最後回収するんですよね。
ここが描きおろしなので、ぜひ読んでほしい。
この描きおろしがあるかないかで全然印象違うんですよ。
相手がちゃんと成長というか、歳を重ねることでしっかりと自分の中に落とし込めるようになっているのが本当に良かった。
しかも、その表現が何でも理解できる、ではない現時点での終着点という描写なのが好きでした。

書籍特典ではお兄さんの輝(ひかる)さんが活躍しています。
続編はもちろんですが、スピンオフが読みたい。
神田さんとどうなっているのか知りたい。
というか、神田さんの話が読みたい。

どこまでも爽やかでほんの少しの苦みはあるけれど、余韻が良い。
性的な何かはないのでそちらを求める方にはお勧めしにくいですが、恋愛の始まりが好き!
友情と恋愛の狭間にきゅんきゅんしたい!
そんな方にお勧めしたい作品です。

最初手に取ったときは分厚さに驚きました。
300ページ超えているコミックス久し振り。
紙媒体を購入しているのですが、ページが多いですがやわらかくて読みやすいです。
ゆっくりと流れる空気感とこの厚み、それなのにだれることなく読み進めることができる。
丁寧な描写がいいんですよね。
これだけのページ数でドラマティックな何かはなく、性的な何かもない。
相手を大切に想うという気持ちだけで構成されています。
それなのに、読後感が良い。
もっと読みたい、いや、ここが一番良いところ…というこの絶妙さ。
続編が出たら喜びますし、スピンオフが出ても喜びます。
けれど、ここで美しく終わるのも良い…と悩ましい作品です。
欲を言えばもう少しいちゃつきがあっても良かったかも、と思うものの、いや…と、このループ。
本当に温かで素敵な作品です。


紙書籍等
itz プランタン出版 2021年09月30日
売り上げランキング :
by ヨメレバ