むくげの日日是好日

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この関係が無くなったら怖くて仕方ない『いつか友達じゃなくなるとしても』ネタバレ・感想

怪我をさせてしまった負い目と家庭環境が綯交ぜになる

 

いつか友達じゃなくなるとしても カサイウカ HANAMARU COMICS PREMIUM 白泉社

 


あらすじ

トモは家庭の事情で高校生だが一人暮らしをしている。
そんなトモには柊平という大切な幼馴染がいる。
柊平は片目を失明しており、それはトモと喧嘩をしている時に起きた事故だった。
自分のせいだと責めるトモに対し、柊平と柊平の家族はずっと変わらずに接してくれていた。
実はトモは柊平のことが好きだった。
だが、この状況の中言えるわけがなく、いつかこの想いが消えるだろうと気持ちを隠し続けようと思っている。
しかし、柊平の妹がトモに好きな人がいるのかと訊いてきたことで柊平がそのことを気にし出してしまい―…。

カサイ先生のデビューコミックス だそうですが、完成された感があります。
絵の雰囲気も変わらず話の作り方もいい。
電子コミックスでは上下となっておりますが、紙書籍だと一冊です。
※古いせいか紙書籍は見当たらない…(2012発行)

・幼馴染の片目を失明させてしまったと負い目を感じる。※失明した方は変わらず接してくれる。
・親が子供を置いて出て行く※いろいろ言いたい案件。
・失明した方の家族も変わらず接してくれる※泣ける案件。
・怪我をさせたと感じている方の兄が超ブラコン※両親を思うとそれで良しな気がする。
・友達からの恋愛感情の行方。※この関係を崩したくないという王道のアレ。だが、そこがいい。

ざっくり書くだけでも結構重い話だな…と思いますが、本当に柊平と柊平の家族がいいんですよ!
トモの家庭環境を知っているからこそ、というのもあるでしょうが(何せ母親が出て行った後引き取ろうかと考えるくらい。でもトモが負い目を感じそうだと断念)本当、凄い。
トモは一人暮らしだけど柊平は大家族なわけです。
ここの対比もいいんですよ…。
大家族で皆かトモを大切にしていて、家族同然と言って可愛がってくれるんですよ。
全員トモをウェルカム状態でいるからこそ、トモは安心できる場所を得られているわけです。
ただ、だからこそ「好きな相手が柊平」だとバレるわけにはいかないと思う理由でもあります。
絶対にこの空間を無くしたくないし、雰囲気を壊したくない。
絶対に好きな人はバレないように必死。
でも、距離を置くのは無理……だって、トモの安心できる場所でもあるから。

柊平の家族の温かさというものはトモに限ったことではなく、妹のまいちゃんの彼氏のゆうとくん(二人とも幼稚園児)にも発揮されます。
母親しかいないゆうとくんを夜まで預かることになった日(まいちゃんが一緒にいたいとごねた)普段とは違い家の中に大勢の人いる中でどうしたらいいのかわからないゆうとくん。
その姿を見てトモを思い出す柊平。
また、ゆうとくんはその中でまいちゃんの父親の服をぎゅっと掴んでいるんですよね。
この描写が本当に良い。
安心する大人、と認識してる。
ゆうとくん可愛い。
まいちゃんに押し切られて付き合っているみたいにしか見えないけれど、可愛いな。
まいちゃんのゆうとくん大好きっぷりも可愛い。

話の中で眼科医師が「何かの理由で怪我をした場合その場にいた人達は疎遠になりがち」(※要約)と言う場面がありますが、この言葉がねぇ。
失明したけれど、ずっと温かく迎えてくれる家族というのは本当に凄い。

トモの両親は離婚していて、兄がいる。
兄は家から出て職場の寮で暮らしている。
一緒に暮らしていた母親は手紙と少しのお金を置いてトモが高校入学後に出て行く。

えええー……。
中学卒業して働いているからもういいでしょ(トモは進学しているので当てはまらない)、じゃなくて義務教育終わったからもういいでしょなの?(※理由は明かされておらずトモはそう解釈)
えええー…。
手紙に許してほしい、心配しないでほしいとあるけど……。
えええー…。

この状況で兄(超絶ブラコン)が迎えにくるけれど柊平と離れたくないからと言って兄に援助してもらいつつ一人暮らしを始める。
これ、学校に説明して終わる案件なのかな?
時代とともに変わって行くので当時は何とかなったのだろうか…(コミックス発売は2012年)
しかし、これはこれで兄としてもきついですよね。
家賃込みの生活費負担(もちろんトモもバイトはしている)
当然のように仕送りも上下しますし、トモとしては自分の我儘で一人暮らしをしているため何も言えない。
……はー、両親……。
別れた後は父親からの養育費もなかったんだろうな、でも母親も出て行った後仕送りしてないようなのでどうすると思っていたんだろう……。
兄に頼ると思っていたのだろうか。
兄に任せればいいと思っていたのだろうか。
ちなみに兄はブラコンで少し闇というか、自分に懐くトモが大事すぎて自分以外に懐くトモに対し少しマイナスイメージあり。
ゆえにトモと柊平との仲を裂こうと嘘をついたりします。
でも、このことに関しては悩ましいところですが、やっぱり怒鳴り合う両親の姿などを見続けていたし、親が出て行った後の金銭的援助(柊平から離れたくないトモの我儘)を考えると執着が酷くなるのもわからないでもないんですよ。
難しいところですが。
兄も幸せになってほしい……。

本当にトモにとって柊平とその家族というのは大きな存在だったんですよね。

良かったなぁ、と思いつつもまさかトモの母親はそこまで見越していたというか期待していたりしたのだろうか…と思うと辛い。

ただ、トモの両親のことについては色々考えてしまうのですが、柊平と家族との関係があり救いが描かれているので良かった。
どうしても未成年の子供を置いて親が出て行く場面がダメ!という方にはお勧めしにくいですが…。
地雷はほんの少しの差で踏むか踏まないかなので難しいですよね。

柊平は親に説明をしてからトモに想いを告げるのもいいな。
柊平の家族はその内容を否定しない。
笑顔で受け入れる。
ご都合主義な展開と言われるかもしれませんが、このくらいが作品の重さには丁度いいと思います。
ちゃんと家族同然と言ってくれていた人達が否定をしない。
これがどれほどトモにとって重要なことなのか。
また親に置いて行かれた、というトモにとっては同じように柊平にも一人にさせたくないという思いもあると思います。

この作品、柊平の家族がもう少しドライ(もしくは怪我をさせたなどで責める)だったら辛くて読めないな…。
例え二人の世界で幸せ!だとしても結構モリモリの辛い展開は避けたい派です。
この作品は背表紙のあらすじにもしっかりと「大家族が温かく迎えてくれる」とあるから安心だけど。
あとは、カサイ先生の作品を他にも読んでいたことも大きかったです。

この作品はキスどまりです(BLの定義は別にセックスありきじゃないでしょうが、一応)
もしかしたら続編があればこの先も、と思いますが綺麗にまとまっていますので十分です。
でも、もしあるなら読みたい。
カサイ先生の全て追えてないのでもしかして何処かに続きの読み切りとかあるのだろうか…。

あと、口絵がいいんですよ!
もう目が見えなくなるのだろうとわかっている柊平(片目にガーゼが貼ってある)とトモが手を繋いでいるのですが、笑顔の柊平が引っ張っているんですよね。
トモは戸惑いがち。
もう柊平は片眼が見えない。
でも、離れたくないし、なんだってするから嫌いにならないでって泣くトモを抱き締めるのは柊平なんですよね~~~~!

良い話で本当に読めて良かった!