むくげの日日是好日

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パーフェクトヒューマン(自称)な生贄が奮闘する『いけにえもんぜんばらい』ネタバレ・感想


ここまでポジティブな生贄っている?


いけにえもんぜんばらい 加藤スス 秒で分かるBL libre

 


あらすじ

渦巻家は111年ごとに一族繁栄のため、当主を供物として捧げていた。
そして、この度供物として捧げられるのは渦巻七生。
彼は幼い頃から供物となるべく生きてきた。
だが、捧げるための儀式を行っていると御神体とは別の建物から一人の青年が出てきて生贄は要らないと言われる。
納得がいかない七生はその青年に神様に会いたいと迫る七生。
すると青年が大蛇になり、その姿に七生は驚く。
神様とだけ聞かされ、その神様がどんな姿なのかは教えられていなかった。
それもそのはず、神様である大蛇に捧げられた者は全て食べられていたからだ。
怯える七生を脅し食べられたくないなら帰れと言うも、七生も退くことなく生贄としてやってきているのだから、食べろと言う。
生贄になった七生と神様である大蛇の攻防戦が始まるのであった―…。

 

表紙からして生贄の方が神様(大蛇)に対して良い感情を持っているのがわかって可愛い。

いわゆる神様への供物(生贄)ものですが、この生贄が非常にポジティブなのが良かった。
食べて食べて!という感じでグイグイ迫る。
この生贄ジャンル(?)は大抵理不尽ともいえる設定で神様に捧げられます。

・何かのコミュニティ(村や家など)のために無理矢理
・神様に対して良い感情を持っていない(恐怖、怒り)
・生贄が自暴自棄
・神様が生贄に執着
・神様が生贄に興味なし
・生贄=番(婚姻関係)

というものがよくあるパターンかな、と思うのですが、この作品はとにかく生贄がポジティブ。
家の為、という大義名分はありますがそのために生きてきたので必死(一心不乱な許嫁設定みたい)


作品のポイント


一族繁栄の為の生贄→直系であることが条件。続けると絶えることもあると思うのでそうなったら傍系に移るのかな?
・生贄がポジティブ→それしかないと思いこませているし、自身も家族の為にと思う。
・取り扱説明書あり(生贄マニュアル)→代々伝わっている。また本人作のものもある。床入れ(の知識)も食事作りも完璧
・建物内の生命あるものは大蛇の感情→ツタなどがぐるんぐるんに伸びては七生を囲む。だけど大蛇本人は必死に耐えるし、別に何とも思ってないし、な態度。
・外食代くらいは持っているライフラインにて使用する分など渦巻家が負担?パソコン触っているからネットで稼いでいる?夜通し何かしているようだし、ゲームだけでなく株とか?
・長寿の根暗と短命の根明の間に流れるのはナイル川→世界一長い(2021年現在)
・欲望がないと魂はスカスカ→旨味成分。
・人を食べなくても文明の恩恵があれば大丈夫→化学食品を拒否っていた生贄との対比。
・大蛇は実家に1000年戻って無い→いくつなの?
・孕まそうと思えば無機物でも出来るぞ宣言→神様凄い。
・可愛い→それ以上の感想が見つからない。

 

ポジティブ加減がちょっとおかしくコメディ要素がたっぷりで、考えたら何その習わし、と思っても読後感的には「ま、二人が幸せならいいか」となっている。
凄く良いバランス。
理不尽な習わしに関しては実際大蛇も「そんな習わしやめろ」というくらい。
でも、小さな頃からそう躾けられていたし、実際自分が逃げ出したら次の生贄が絶対に捧げられる。
そして、その捧げられるのは自分の妹だとしたら、何が何でも自分を食べてほしいと願う。
それなのにシリアス一辺倒にならず、本当に面白く話が進むのでこれはもうキャラ勝ちであり、加藤先生の上手さだと思いました。

大蛇も七生くんのこと容姿と教養を誉めているところから少なくとも嫌いじゃないタイプだと思う。
七生くんは大蛇の容姿はどうでも良いみたいな感じなところがいいな。
好きになったらもうそこは可愛く見えるというアレです。

他には大蛇のお兄さんの白蛇と使いの蝮が出てきますが、2匹(白蛇は神様だけど)も良いんですよ。
蛇らしく七生くんを食べることを勧めてきますし、なんなら自分が食べるよ!と言います。
大蛇もそうですが白蛇も沢山食べるのでお店でそれはもう、という程食べます。

そして格好も大蛇は格好も人間世界の時代に合わせたもの。
白蛇は大蛇が嫌がる神様の格好。
でも、白蛇も人間のところへ行く時はそこに合わせているのが可愛い。
もし続編があるなら白蛇の話も読みたい。
蝮との関係性も良いけれど、ここはそのままの方がいいかな。


七生くんは今まで生贄として生きてきたので他の人との関わりの必要性を感じなかった。
今回大蛇の為に味の濃い物などを調査するためクラスメイトと話す。
生贄と捧げられたことで「(目的以外の)他の人と関わる事の意味」を知っただけでも大きな変化ですよね。
生贄=死に行く
なんですが、生贄に行き断られて初めて人との関わることを知るって…。
何とも皮肉な展開ですが、このことで欲を知り魂が変わって行く。
生贄精神だけで生きてきたのに、恋を知ったり人と関わりを持ってしまうと欲が出てしまう。
何の疑問も持たずに食べられることのみを当たり前として受け入れていたから「死」に対して何の感情もない。
ただ、言われたことをするのみ。
もちろん、妹を守りたい、母親の笑顔を奪いたくないという感情はありますが。
妹の存在から恐らく父親もいると思うけれど、出てこない。
当主は七生くんだしな…どうなっているんだろう。

魂に欲がないと美味しくない=経験値がない人生はつまらない(本人の意思関係なく)

楽しく生きてこの世を満喫してその上で捧げられる魂が美味しく、意味がある。
食べられるという恐怖、生きたいと渇望するそれこそが魂の味を決める。
人外もので魂食すジャンル(?)は意外と美食家でこういうこと言ってくるんですが、まぁ、大抵食べられないまま終わるんですよね。
魂が美味しくなった時には大抵相手に落ちているという……。

描き下ろしも良かった。
思いが通じ合ったあとは本当に大蛇の変化が可愛い……。
七生くんが少しでも離れようとすると上目遣いとか……。
もう……なんなの……。
可愛いじゃない……。
帯には「うずまきななおの喰べ方」(本編にもあります)が載っているのも可愛かった。
あれポイント高いと思っていたので。
七生くん可愛いな……一族の決まりはアレだけど、純粋培養で育つとこうなるの…?
いや、七生くんだけだろうな。
今までの生贄は違うみたいだし。
そしてカバー下の漫画も可愛いです。

神様は人間の姿の時も蛇顔ですが、大蛇らしくしっかりと蛇の姿も描かれていますが可愛い感じの描かれた方です。
アップになると鱗もしっかりと描写されていますが、可愛い範囲だと思います。
爬虫類が苦手な方にはどんな姿でもダメでしょうけれど…。

タイトルが全部ひらがなで可愛い感じ。
表紙に漢字表記もありますが、ひらがなで良かった。

人外が苦手な方には勧められないですが、平気な方にはお勧めしたい一冊です。
一冊で恋する瞬間から落ちるところまで纏めてられていて、面白い。

恋をすると神様だって変わってしまう、そんなところも可愛い。
可愛いしか書いてないですが、可愛くて面白いならそれ以上の言葉はないですよね。
試し読んでみて蛇が大丈夫そうでしたらぜひ。